鎌倉世界遺産登録推進協議会
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武家の古都・鎌倉ニュース第25号  秋号/Autumn 2012

 
『武家の古都・鎌倉』イコモス現地調査について 記者会見要旨
イコモス調査員・王力軍(ワン リジュン)さん来日、現地調査終わる

鶴岡八幡宮を視察する王さん(中央)
鶴岡八幡宮を視察する王さん(中央)
撮影:高木治恵さん
 平成24年9月24日(月)から27 日(木)の4日間、ユネスコの諮問機関イコモス (国際記念物会議)から調査員の王力軍さんが訪れ、世界文化遺産に推薦されている 『武家の古都・鎌倉』の現地調査が行われました。 調査の終わった27日夜、鎌倉市役所で記者会見が行われ、文化庁は「総括的説明」で 調査内容の概略を明らかにしました。イコモスのルールで調査員本人は会見に 出席しませんでした。質疑応答と合わせて会見要旨をお伝えします。

総括説明/石野利和・文化庁文化財部長
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≪調査はどのように行われたのか≫
 9月24日から4日間、「武家の古都・鎌倉」の重要な要素21カ所すべてで 円滑に調査が行われました。鎌倉の文化的価値を審査するということではなく、 基本的な保全管理の状況について調査することが目的で行われました。
 特に (1)各資産の範囲、境界線の設定状況、(2)保存管理計画あるいは現状変更についての実施状況、 (3)防火、防犯、(4)復元についての考え方・実施方法等、に関心を示して調査が行われたとの感触を持っています。 来年5月には推薦内容についての専門家による分析と今回の調査結果を あわせてイコモス勧告が行われます。
 勧告が出されるまでにイコモスあるいは調査員からの追加的な情報照会が あれば、文化庁、国土交通省、4県市で対応して、イコモス勧告とその後の 6月にカンボジアで予定されております世界遺産委員会に向けてしっかり 取り組んでいきたいと考えています。

調査日程
9月24日朝夷奈切通、称名寺
9月25日荏柄天神社、鶴岡八幡宮、名越切通、法華堂跡、 永福寺跡、若宮大路
9月26日亀ヶ谷坂、仮粧坂、極楽寺、寿福寺、浄光明寺、 大仏切通、東勝寺跡、北条氏常盤亭跡、和賀江嶋
9月27日円覚寺、覚園寺、鎌倉大仏、建長寺、瑞泉寺


質疑応答
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調査員の受けた印象
 王さんは、夕焼けをバックにした鎌倉大仏を非常に感慨深く見られて、 写真を撮っておられました。4日間の調査の集大成のような印象を持って 帰られたのではないかと思っています。

鎌倉には武家文化を象徴するような建造物などが残っていないことについて
 武家文化の跡を証明できるような「重要な要素」がしっかり入っていると いうことで、推薦書を提出し、説明させていただいていますので、イコモスの 理解も得られるのではないかと思います。

山稜部や社寺などについて
 三方が山に囲まれ、一方が海に開くという独特の地形の中で、武家政権と 武家文化が生まれたということを体験していただいたと思います。庭園等を しっかり見ていただくと同時に、精進料理やお茶も体験していただいて、 武家文化についての理解を深めていただけたのではないかと思っています。

富士山は「登録まで八合目」、鎌倉は
 保存管理についての実感としては、現地での説明と調査員の理解としては、 富士山と同じ「八合目」に達していると感じています。
           (以上、文化庁石野部長の回答要旨)

交通渋滞や開発問題等に関する取り組み
 渋滞や観光の問題については、市としても様々な取り組みをしていると いうお話をさせていただき、一定のご理解を得られたのではないかと 感じております。
(島田正樹・市世界遺産登録推進担当担当部長)
 

◆ 松尾崇市長インタビュー・登録に向けた世界遺産行政の今 ◆
登録に全力「ユネスコに、トップの思いを伝える」

松尾崇鎌倉市長
松尾崇鎌倉市長
 いよいよ来年(平成25年)6月に、「武家の古都・鎌倉」の世界遺産登録 の可否が決まります。ここに至って、松尾崇・鎌倉市長は、どのような 世界遺産行政を思い描かれておられるのか。あしかけ3年目に入った 鎌倉世界遺産登録推進協議会会長の立場も踏まえて、語っていただきました。

◆世界遺産のあるまちづくり推進検討委員会を設置

 今年から庁内の横断的な世界遺産登録に関連する課題解決の プロジェクトを立ち上げ、関係する部局が集まって 『世界遺産のあるまちづくり推進検討委員会』を作りました。 大谷雅実副市長をトップにして、7月からは世界遺産登録 推進担当担当次長を特命でおき、一つ一つ具体的な課題解決の アクションを起こして行く態勢をつくりました。

◆「武家の古都・鎌倉」見守り事業の立ち上げ

 市民に主導的にかかわっていただくアクションとして、 世界遺産見守り事業を立ち上げました。東日本大震災地の 大船渡(岩手県)の高台にある国指定史跡「蛸の浦遺跡」の 保存問題からヒントを得ました。津波の被害で、住民は高台に 移転したいという気持ちを持ち始めたようでした。 遺跡の場所に移ればいいではないかという住民の意見で、 生命が大事か遺跡が大事かという論争になりました。
 やはり住民が日ごろから遺跡を大切に思って、内容を 知っていれば絶対起きないことでした。 鎌倉にも同じような状況のところがあるのではないかと 思いました。地域の方々がいつも管理をしていてくださると いうことで、地域の住民が常に愛着を持っているということが 大事と考え、そういう経過で生まれたものです。

◆大倉幕府跡の検証

 荏柄天神社参道脇のマンション建設問題の中で、 大倉幕府跡の存在が色濃く出てきました。 行政としては大倉幕府の検証を次のアクションとして、 優先順位を高くして取り組んでいかなくてはならないと思っています。

◆世界遺産行政を振り返って

当初は現状を見ても受け入れ態勢ができていないし、 登録だけが先行していいのかという危惧がありました。 また、市民に十分意味が理解されておらず、時期尚早では ないかという思いもありました。問題を解消するために 動いていくということが、いま置かれた私の立場で最善を尽くす ことだと考え、やる以上は全力でやろうと思いました。
 7月にはパリのユネスコ本部に行って木曽功大使とも 意見交換してきました。トップの思いを伝えてこられたということは、 私としては大変重要なことだと思っています。
 
Watch! the 世界遺産  登録目前、市民と行政の取り組みをウォッチ!
日本語・英語・中国語・韓国語対応!
4県市協同のホームページを開設
「武家の古都・鎌倉」の構成資産を持つ神奈川県・横浜市・ 鎌倉市・逗子市がその価値や魅力を紹介しています。
英語・中国語・韓国語圏の友人・知人の皆様にも、ぜひお知らせください。
携帯web!
「歩いて巡ろう武家の古都・鎌倉」
湘南工科大学との協働で、インターネットを使った 携帯電話版・鎌倉世界遺産ガイドシステムがスタートしました。
「武家の古都・鎌倉」の詳細や、各候補地のガイドが見られます。



世界遺産登録啓発マグネットシートに注目!
シール まちで見かける市の公用車が、世界遺産登録推進のシールを 貼って走っています。コピーは3種類、気品のある紫色に。
いつもの市の車も少し華やいでいるようです。

市の公用車が一斉に「世界遺産のまちづくり」。
市民と協働でスタート! 「武家の古都・鎌倉」見守り事業
鎌倉市とボランティアの市民団体が連携して、 鎌倉市内の歴史的遺産を日常的に守るために 「武家の古都・鎌倉」見守り事業をスタートしました。
5つの市民団体が、史跡やその周辺の環境保全に協力します。 例えば、ゴミや倒木などが発見された場合、5つの団体は 速やかに市に連絡するなどして、鎌倉を見守ります。

5団体の紹介
(1) 鎌倉風致保存会…鎌倉の歴史的景観や緑地保全活動を行う。
(2) 鎌倉ガイド協会………市内の史跡や文化財を案内する団体。
(3) 鎌倉ガーディアンズ…地域の安全活動を行うボランティア団体。
(4) ハイキング・クリーン…市内ハイキングコースなどの保全を行う。
(5) キープ鎌倉クリーン…他市とも連携し、湘南の環境保全活動を行う。

 

◆ 「『武家の古都・鎌倉』の世界遺産登録を推進する議員連盟」設立 ◆
イコモス訪問を機に、世界遺産登録に弾み

中村省司議員
中村省司議員
平成24年6月15日、神奈川県議会では、全議員105人が超党派で参加し、 鎌倉の世界遺産登録推進のための議員連盟を設立しました。 そのきっかけや今後の活動などについて、会長となった中村省司議員に 伺いました。以下、発言要旨です。

●議員連盟設立のきっかけ
 1999年3月に、神奈川県議会では「古都鎌倉の世界遺産への 登録実現に関する決議」を全会一致で採択するなど、 一貫して鎌倉の世界遺産登録を支援している。
 本年6月議会は、4年の任期が終わる最終本会議なので、 何かふさわしい決議はないかという声が上がった。 それなら世界遺産登録実現にかかわることをやろうということになり、 1999年の決議にもかかわった私が会長になって、議連を設立した。 鎌倉は三大古都のひとつなので、交通渋滞やゴミなどの対策を考えて、 住んでいる人、訪れる人に楽しんで豊かな生活を経験してもらうと いう前提に立っており、従来からある観光議連とは違う。

●世界遺産支援のポスターや県民大会
 議連では、早急にできることから始めようということで 具体的な計画を練っている。9月のイコモス来訪に合わせて 世界遺産支援ポスターを作成し、8月下旬から地元に持って いって貼っている。議連議員の勉強会も始めた。 さらに世界遺産登録推進の県民大会ができないかと考えている。 どこかで県民大会を開いて、県知事や横浜、 鎌倉、逗子の市長たちにも参加してもらって、共有できる ことはないかを探っている。

●県議会と県知事の全庁体制が整った
 議連の意義は、現実の道路からゴミに至る生活事象を条例化したり、 行政とリンクさせて推進していくという機能にある。その数は ざっと30で、ガン議連、なぎさ議連、国際友好議連などが活動している。 議連発足が契機になって、知事を本部長とする『武家の古都・鎌倉』の 世界遺産登録推進本部が立ち上がることになった。 これで神奈川県は、県知事と県議会の全庁体制が整った。 『武家の古都・鎌倉』の登録を全力で支援していく。
   
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◆ 「鎌倉の世界遺産登録と登録後のまちづくり」意見交換会 報告 ◆
みんなでつくる世界遺産のまち鎌倉

 平成24年8月20日(月)、市役所講堂で、今年度の推進協議会の活動方針 「みんなでつくる世界遺産のまち鎌倉」キャンペーンの一環として、 世界遺産登録と登録後のまちづくりに対する意見交換会 (荒井実行委員長)が行われ、14の市民団体と推進協議会委員が 参加しました。事前に参加団体に送られたアンケートや、 当日提示された問題点に対して、多くの意見が出されましたので、 そのいくつかをご紹介します。

◆世界遺産への登録と登録後の鎌倉づくりの問題点

○観光客の増加が見込まれますが、それに対応したインフラの整備は 可能でしょうか?たとえば狭い道路と交通渋滞、トイレの整備、世界 遺産都市のたたずまいにふさわしい街並景観の形成、緑を破壊する 乱開発への歯止め、宿泊施設の充実などです。
○世界遺産周辺のバッファゾーンを形成する緑・山並み・海岸などの 自然と景観をいかに保全していくかが課題です。
○世界遺産に包まれた鎌倉の暮らしと観光・商業の在り方を見直す 検討が必要です。

◆当日提示された問題点に基づき、その解決策など

○景観法などを視野に入れた中長期ビジョンが必要。看板やサイン、 電柱の地下埋設など、美しい町を提唱します。
○斜面緑地等の宅地開発が心配されていますが、鎌倉の価値の半分は 「緑」にありますので、「緑の特区」をめざしたいと思います。
○交通問題については、市外からの車の乗り入れを規制して、 市内に入る車は料金を徴収し、市外に駐車場を整備して公共交通の 利用を促進します。

 日頃から鎌倉のまちづくりなどで活動している市民団体が集まったため、 ここにご紹介した意見の他にも世界遺産としての課題や解決策が いろいろ具体的に提起されました。この日の意見を生かして 「鎌倉世界遺産Q&Aブック」にまとめることになりました。

 

鎌倉文化を訪ねる
神奈川県立金沢文庫学芸課長 西岡芳文さんに聞く
「鎌倉文化の精華を伝える金沢文庫」

  鎌倉の世界遺産候補地のひとつに、横浜市金沢区の称名寺があります。 それに隣接する金沢文庫は、北条実時によって建立された称名寺の一角に設置 され、歴代の金沢北条氏が拡充していった武家文庫として広く知られています。  この金沢文庫は消滅しましたが、中世の貴重な文化財は称名寺などに伝えられ、 現在の神奈川県立金沢文庫に遺されています。その遺された経緯や文化財につ いて、県立金沢文庫の西岡芳文さんに伺いました。

 「武家の古都・鎌倉」の世界遺産のエリアの中に、鎌倉からとび離れた称名寺が 加えられているのを不思議に思われる方も多いかと思います。金沢は横浜市の南端で、 古くは武蔵国に属する六浦庄という荘園でしたから、行政区分の上でも相模国に 属する鎌倉とは別の領域であったのです。しかし『吾妻鏡』には、鎌倉の四隅を 守るための陰陽道の儀式「四角四境祭」の式場の一角に「六浦」が挙げられて いますから、ここが鎌倉時代から鎌倉の一部と見られていたことが分かります。 鎌倉に通じる港湾として栄えた六浦津に連なる金沢の地には、北条義時の孫にあたる 北条実時が本拠を置き、別邸とともに金沢文庫と称名寺を造営しました。

 金沢文庫は北条氏の滅亡とともに主を失いましたが、称名寺は極楽寺と並ぶ 関東の律院の中核として存続し、中世の貴重な文化財を守り伝えてきました。 しかし明治維新によって寺領を失った称名寺は存続の危機に直面したのです。 そこで寺宝の散逸を懸念した有識者の支援を受け、昭和5年(1930)に神奈川県が 金沢文庫を再興することになりました。でも当初は名義だけの復興で、「昭和塾」と いう研修施設の付属図書館というような扱いだったようです。称名寺の池畔に 建設された昭和の金沢文庫は、瓦屋根をのせた鉄筋コンクリート造りの頑丈な建築でしたが、 文化財を安全に保管・公開するような設備は備えていませんでした。 世界的に有名な「金沢文庫本」は江戸時代までにあらかた外部へ流出し、 称名寺にはわずかな什宝以外には何も残っていないと考えられていたからです。

 県立金沢文庫が発足して間もなく、称名寺の須弥壇の中に秘蔵されていた いくつかの大きな長持が金沢文庫に搬入されました。その中には、虫やネズミに 食い散らされてバラバラになった膨大な古書の残骸が収められていました。 初代文庫長となった関靖らが整理を進めたところ、中世の仏典の裏側に多量の 手紙が残っていることが発見されました。鎌倉時代末期に執権をつとめた金沢貞顕の 書状をはじめ、幕府中枢にいた人物たちの生々しい息吹きが浮かびあがってきたのです。

江戸時代の金沢文庫跡
江戸時代の金沢文庫跡(出展:『江戸名所図会』)
 鎌倉幕府の通史である『吾妻鏡』が、蒙古襲来の前(文永3年・1266)で中断して いるので、鎌倉時代後半の歴史を伝える資料はきわめて少なかったのですが、 新たに出現した「金沢文庫文書」は、その欠を補う貴重な資料として歴史学界に大き な波紋を広げました。同時に発見された「称名寺聖教」には、学僧たちが京都・奈良、 さらに中国の新しい学問を鎌倉に導入しようと努力していた様子や、鎌倉で芽ばえた 念仏や禅・法華などの新しい仏教の胎動を示す資料が含まれていました。 北条実時が中国から取り寄せた「宋版一切経」とともに、鎌倉時代の文化を 知るためには不可欠の文化財となっています。

 鎌倉文化の象徴とも言える金沢文庫は、平成になって収蔵・展示設備をそなえた 新館に移りました。称名寺に伝わった2万点におよぶ国宝・重要文化財を保管・ 公開する博物館として、世界遺産の史跡として整備されたお隣の称名寺庭園とともに、 鎌倉文化の精華を今日に伝えています。

 

武家の古都 鎌倉塾 平成24年度 春季講座 第1回要旨
『武家の都鎌倉の製茶と喫茶文化』
講師:永井 晋さん(金沢文庫主任学芸員)
とき:平成24年5月13日(日) ところ:鎌倉芸術館

◎栄西茶樹招来説の誤り
 茶道史という視点ではなく、茶の生産と消費を、政治・経済・文化という 総合的な視点から、茶の通史という軸線にすえて捉えてみたい。
 茶は奈良時代に遣唐使によって仏教と共に伝えられ、平安時代に漢詩文の 世界や密教の儀礼として朝廷で用いられた。茶樹は大内裏の茶園で育成されたが、 典薬寮か主殿寮が管理、蔵人所や穀倉院が茶園を管理し、生産に携わった。 また大内裏以外にも平安初期の嵯峨天皇が畿内近国に植樹させるなど、 茶樹の育成と茶の生産は朝廷の官僚組織のもとに制度化されていった。 嵯峨天皇のころは特に漢文学が栄え、茶は中国文化への憧れと結びついて 盛んに飲用されるようになった。それ以降も詩歌管弦の雅の場で酒や茶が 楽しまれた。一方寺院でも修法に組み込まれた茶の需要を満たすために 寺院の敷地や寺領に茶園が営まれた。

 茶樹は日本でも自生できる帰化植物でありながら、あまり記録に 残らなかったのは、茶の生産が通常業務化していたからに他ならない。 栄西は茶の新しい喫み方を移入したのであって、茶を招来したというのは 俗説に過ぎず、それによって古代と中世との間に断絶を作るという 誤った歴史が生じることになった。

◎鎌倉と茶
 源家三代の時代、平教盛の子の小川法印忠快は実朝の信任を得て 密教の修法を盛んに行った。天台密教葉上派の僧侶として活躍した栄西は 中国で学んできた禅を広めたが、茶は本寺の延暦寺から供給を受けている。 北条政子の帰依を受けて寿福寺開山長老となるが、これは私人としての 活躍と見るべきで、寿福寺は公的な鎌倉将軍家の祈願所ではなかった。
 武家の鎮護・将軍家の安泰を祈願する幕府の公的な寺社は鶴岡八幡宮・ 勝長寿院・永福寺・大慈寺以下いくつかに限られていた。それぞれ 神と仏または天台と真言が弘通しており、各寺社は特定の宗旨に固執しなかった。

 四代将軍頼経の時代になると、父の摂政・関白九条道家が多くの殿上人・ 諸大夫・僧侶・陰陽師を鎌倉に派遣したことにより、茶の消費はさらに進んだ。 源家将軍時代よりも、将軍御所を内裏に準じて清浄に保つよう最大の注意を 払うようになり、災厄を払うための修法がより重んじられ、それに応じて 茶の消費が激増する。この時期には興福寺の勢力圏にある大和茶も鎌倉に 供給された。
 儀式や修法で用いられるこれらの茶は煎じ茶であり、抹茶は小人数の席で 使用する私的空間の茶であった。また茶の供え方について、『秘抄口決』 第三十六「北斗法」には、最上は茶の粉を仏供 (ぶっく) のように盛り上げ、中品茶は 茶葉よくこれを煎じ、下品茶は葉を盛るとある。また『秘抄問答』巻第十四末には、 仏に備える茶は白い器を用いるのを例にするとあり、鎌倉も京の作法に倣って 白土器 (しろかわらけ) を用いており、多くの出土品がある。

◎禅宗と茶
 将軍御所は聖なる空間として清浄が保たれていたが、本来武家はもっとも 忌み嫌われた血の穢れに関わった存在である。穢れは神が嫌うものであるから、 それを払おうとする武家の願望に応じたのは、主として天台・真言密教の修法 であった。武家の間に人気があった禅宗は、将軍家を神聖に保とうとする 密教の修法と異なった対処の仕方をした。禅宗は戦闘を職業とする 武家の本性や個人の抱える様々な問題に向き合い、禅の作法により行動の 仕方を示唆した。相手の心に入りそれを受け止めたのが禅であった。 茶は禅の作法の中でも多用されている。

◎鎌倉での茶の流行
 弘長二年(1262)西大寺の長老叡尊が鎌倉に下向して養生の薬として茶を広めた。 西大寺系律宗は茶の栽培・生産に携わる職人集団を擁しており、鎌倉では極楽寺・ 称名寺以下の律院が茶の栽培を始めるに及んで、十四世紀の初めごろから生産量が 拡大した。それに伴って茶は儀礼の席から日常的な贈答品へと展開していく。 律院では職人にも酒茶をふるまったことから茶は庶民の間にも広まっていった。 鎌倉時代末期には、栂野茶(高山寺で開発された茶)かそれ以外の茶かを当てる闘茶が 始まっている。
 鎌倉・南北朝における関東地方の茶の普及に関しては称名寺に多くの記録がある。 称名寺・東禅寺・永興寺・戒光寺の四律院や、高幡不動・中山法華経寺など それぞれ茶園を持ち茶の生産に当たっていたことが分かる。
 


◆ 鎌倉市民同窓会主催 推進協議会共催 緊急フォーラム報告 ◆
「鎌倉の世界遺産を大災害からいかに守るか」

木下さん 佐藤さん 福澤さん 柴山さん
パネルトークで語る (左から)木下さん、佐藤さん、福澤さん、柴山さん
 平成 24年6月16日、高徳院客殿で、鎌倉の世界遺産を始めとする文化財を、 大震災や津波などの災害からどのように守るかについて、緊急フォーラムが 開かれました。
 冒頭に中島章夫市民同窓会代表と、推進協議会会長の松尾崇市長から 挨拶がありました。
 続いて柴山知也早大教授と木下直之東大教授の基調講演があり、その後、 お二人に佐藤孝夫慶応大学教授・高徳院住職と、鎌倉まちづくりコンサル タントの福澤健次さんが加わって、パネルトークが開かれました。
 その間に、鎌倉市作成の防災資料の説明と、「武家の古都・鎌倉」の 構成資産のビデオ上映も行われました。以下、講演とパネルトークの 発言要旨です。


基調講演 「鎌倉を襲う津波の予測と減災方法」

柴山知也早稲田大学理工学術院教授                    

 沿岸防災の研究をしているが、災害は住む場所で異なる。 地域ごとに減災シナリオを考える。鎌倉にどのくらいの津波が来るかは、 数値モデルから計算が可能である。最近は世界的に津波・高潮災害が 頻発しているが、バングラデシュでは日本などがサイクロンシェルターを 提供、被害を少なくした。

 東北の地震津波に関し、宮城沖地震が起ることは分かっていたが、 想定外の規模で起きた。我々はいま想定外がないようにと考えている。 研究者らは調査を分担し合っている。東北の場合、岩手県では百年に 一回のもので、宮城県では千年に一回のものだった。対応や復興の仕方は 異なってくる。

 鎌倉・神奈川の津波対策は、全国でも取り組みが早かった。津波被害規模の 想定は数値予測と堆積物の記録からされ、地震・津波の研究者と防災担当者が 協力し合って作る。千年に一回の事態には避難の事を考える。室町時代の明応 地震の例も考えに入れ避難場所や堅固な4階建て建物をABCランクで考えた。 鎌倉の不利な点は、相模湾の津波伝播の行き止まりの所なので波が高くなる ことであり、宿命的なものと言える。


基調講演 「数々の災いを乗り越えてきた鎌倉」

木下直之東京大学教授(文化資源学)                    

 鎌倉の歴史を振り返り、文化遺産がどのように守られてきたかを考えよう。 災いには、天災と人災がある。明治初年の神仏分離で鶴岡八幡宮の仏教系 建造物は瞬く間に失われた。 

   次の人災は戦後の住宅地開発だった。八幡宮裏の御谷開発への反対運動から 鎌倉風致保存会が生まれ、古都保存法の制定に至った。それが鎌倉を今の姿に 落ち着かせた。

 天災の方では、関東大震災で諸社寺が被害を受け、その後鎌倉同人会が 呼びかけ、鎌倉国宝館が生まれた。指定文化財等は復旧されても、 その他には手が及ばない事情に対応した。反面、仏像や仏画が本来の 場所から切り離されて展示物になってしまったというデメリットもある。 それに比べると、露座だがずっと同じ場所に在り続ける鎌倉大仏の場所で、 今日のこの催しが開かれることには大きな意義がある。文化財である前に 信仰の対象だからだ。万一鎌倉が津波に襲われても、大仏が復興の拠り所と なるのではないか。
 パネルトークに向けて、次の問いかけをしたい。
(1) 文化遺産という言葉を鎌倉でどう考えるか。
(2) 人命の他に文化財をどう守るか。
(3) 災害後の復旧に文化財がどう生かされるか。
                    以上 3つである。

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パネルトーク
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 福澤さんは、自然・人工域図や等高線図、ワークショップの報告などから 鎌倉の人文地理的特徴を説明し文化遺産周辺の地域防災力の育成強化の大事さ、 社寺と協力し合い鎌倉を作っていく必要などを説いた。

 学者でもある佐藤住職は緻密な解説で、この二十数年来の文献・考古・地盤地質・ 大気等さまざまな調査の様子を紹介。科学的な鎌倉大仏の保全対策や今後必要な 措置に関し報告し、また文化財の存在意義や歴史教育の意味を説いた。

 柴山教授は、「今日の話で私たちは、京都奈良に比べ海に面する鎌倉には、 また難しい文化財保護の問題があると解った。今後研究していきたい。 鎌倉市民の防災意識は高い」と語った。

 木下教授は、「コミュニティを形成するのに文化的景観は大事。世界遺産登録で 一時的に観光客は増えるだろうが、その後文化を大事にする町へと向かうことを 期待する」とまとめられた。
 

めざせ世界遺産登録   あなたも参加団体で活動しませんか?

鎌倉から次世代を担う人づくり
横浜国立大学教育人間科学部附属鎌倉中学校
鎌倉市役所で世界遺産を学ぶ。
鎌倉市役所で世界遺産を学ぶ。

 鎌倉市民に「附属」の名で親しまれている同校は、昭和22年の開校以来、 鎌倉に支えられて、より良い教育活動の推進に努めています。 そのひとつとして、「総合的な学習の時間」で将来の生き方を探究する 学習活動が行われています。 1年生は、人との出会いをテーマに、 興味を持ったことについて鎌倉を中心にインタビューを行い、 「人力車に迫る」「鎌倉の七口」「北条首やぐらと貝吹地蔵の伝説」等々、 地域の皆様の協力で実りある学習ができています。 2年生も、鎌倉を中心に 3日間の職場体験を行い、3年生は、修学旅行の京都で専門的な立場の方を 訪問します。また、3年生の国語の学習では、世界遺産登録に関する作文を 書き、中学生作文コンクールに参加して好成績を収めています。

 生徒は「伝統を、形式だけでなく、社会をよくしたいという共通の目的を もって、それぞれの良さを活かした角度で守っていきたい」と話し合っています。 青木副校長は「人や地域と繋がり、伝統を大切にしながらも、未来を自分で 創ろうとする生徒を育てたい」と語って下さいました。
学校見学等のお問い合わせは 電話 0467-22-2033 まで。
 
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世界遺産のまちへ 鎌倉づくり
鎌倉市民同窓会

 20数年前から市民それぞれの多彩な経験を生かそうと、文化・環境・福祉を テーマに活動を展開してきました。江ノ電の魅力を見直そうと、納涼電車を 復活させました。ビールと音楽を楽しみながら公共交通の価値を再認識して、 2年連続して開催し、好評でした。

 岩瀬青少年広場で、伝統の上総掘りによる湧水井戸の掘削を行いました。 9ヵ月の苦闘の末、深度180mで水脈に到達。その清澄な湧水は地域に 親しまれて、暮らしに役立ち、市の防災公園の核となっています。 鎌倉の福祉団体を結集し、市やJRとともに鎌倉駅のバリアフリー化を進め、 エスカレーターやエレベーター3基の設置が実現しました。
世界遺産のまち鎌倉を守るシンポジウム
世界遺産のまち鎌倉を守るシンポジウム


 大津波などの災害から市民の生活と世界遺産のまち鎌倉の文化遺産を守り、 まちづくりを進めるかという緊急フォーラムを昨年 9月と今年6月に開催し、 市民が専門家とともに議論を重ね、具体的な成果を得ました。

 中島章夫代表は、「単に市民活動に終わることなく、行政や事業者に 影響を与え、世界遺産のまちへ鎌倉づくりをめざしています」と語っていました。

 

古都鎌倉の世界遺産登録って なに?

第24回 鎌倉は、緑も世界遺産として守る

 「武家の古都・鎌倉」を構成する資産は、武家政権所在地の整備に 大きな影響を与えた山稜部と、その山裾や谷間などに造られた神社・ 寺院などの「重要な要素」から成り立っています。
 「重要な要素」とは、 現存する神社や寺院と寺院跡・武家館跡・切通・港跡等の考古学的 遺跡のことで、21ヵ所です。鶴岡八幡宮や大仏切通といった 個々の社寺や史跡だけではなく、山稜部を含む範囲全体がひとつの 資産であることが、「武家の古都・鎌倉」の大きな特徴です。

 これまで、日本の世界文化遺産は文化財保護法の国宝・国重文・国史跡でした。 鎌倉の山稜部一帯は、1964年の「御谷騒動」に端を発した保存運動を きっかけに枢要な価値が認められて、1966年に制定された古都保存法により 保全されてきました。
 このため日本で初めて、文化財保護法と共に、 古都保存法の歴史的風土特別保存地区が世界文化遺産に推薦されることになりました。 それらの周囲も歴史的風土保存区域なので、山は一体として保全されています。

 このように鎌倉市民の知恵と努力によって、鎌倉は、文化財と周囲の緑を ともに世界遺産として守ろうとしています。
 
Event! the 世界遺産
第6回 世界遺産登録推進 ワークショップ
参加者募集!
「世界遺産登録後の鎌倉を見据えて − その趣 (おもむき) と理 (ことわり) −」

 市民が集まって、テーブルに分かれ、意見を出し合い提言するワークショップ。
今回は、A.山・海とまち、B.観光と住生活、C.文化都市をめざす、の3つの テーマに分かれて話し合います。
市内外の皆様のご参加をお待ちしています。
●今回のアドバイザーは木下直之さん(東京大学教授・文化資源学)と 赤川学さん(東京大学准教授・社会学)です。


と き : 平成24年11月18日(日) 午後1時30分〜4時30分(午後1時15分開場)
ところ : 鎌倉市役所第4分庁舎2階 会議室
定 員  : 先着 50名(定員になり次第締切。結果は全員に通知します)
参加費 : 無料
申込方法 : 住所・氏名(ふりがな)・電話(FAX)番号と希望するテーマ (A.B.C.のいずれかの第1希望と第2希望)を記載し、
はがき、FAXまたはEメールで、 下記の鎌倉世界遺産登録推進協議会事務局「11/18ワークショップ」係へ(11月9日必着)。
主催/鎌倉世界遺産登録推進協議会 共催/鎌倉の世界遺産登録をめざす市民の会         

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Watch! the 世界遺産
鎌倉市民文化祭・世界遺産部門の優秀作品決定!
9月22日(土・祝)〜10月2日(火)、鎌倉芸術館ギャラリーで、鎌倉世界遺産を モチーフにした美術・写真作品が展示されました。今年の優秀作品は次の方々です。

美術部門
写真部門
「寿福寺のやぐら」二見隆さん 「どっしりと」吉田一男さん 「静の舞」石井金次郎さん 「静かなる時」西郷義則さん
「寿福寺のやぐら」 二見隆さん
「どっしりと」 吉田一男さん
「静の舞」 石井金次郎さん
「静かなる時」 西郷義則さん

来年はあなたも応募しませんか? 募集要項は来年 6月以降に配布の予定です。


EDITOR'S NOTE 編集後記

 ユネスコの世界遺産委員会の諮問機関であるイコモスによる鎌倉の現地調査が 行われました。鎌倉の世界文化遺産候補地は、山稜部と一体となった十ヵ所の構成資産が、 社寺や史跡など21ヵ所の重要な要素を中心に成り立っていますが、政府から ユネスコに提出された推薦書の内容は、主に資産の保存管理状況が問われました。
 この報告書はイコモスの審査を経て、世界遺産センターに答申され、来年6月 にはユネスコの世界遺産委員会で登録が決定されます。
 鎌倉の世界遺産登録も間近に迫ってきましたが、今必要なことは、遺産の保護・ 保全を行政だけに任せず、市民がもっと自覚して協働していくことです。
 市民と来訪者も含めて、キャッチフレーズ「みんなでつくる世界遺産のまち鎌 倉」としての誇りを広く持てるように、推進協議会の活動を世界に向けて発信し ていきたいものです。
広報部会長 内海恒雄          
 

●鎌倉世界遺産登録インフォメーション&放送スケジュール●

  • インターネット  ◆鎌倉世界遺産登録推進協議会HP  http://www.shonan-it.org/KWH-kyogikai/
  • FMラジオ    ◆鎌倉FM(82.8MHz) … 毎週金曜 19 : 10 〜 19 : 30 「鎌倉世界遺産への道」
  • ケーブルテレビ ◆JCN 鎌倉 … 毎週木曜 17 : 10 〜(当日再放送あり) 7 Days デイリー「一問一答!鎌倉検定の道」

鎌倉世界遺産登録推進協議会
事務局
 〒248-8686 鎌倉市御成町18-10 (鎌倉市世界遺産登録推進担当)
 Tel. 0467-61-3849  Fax. 0467-23-1085
 E-mail : sekaiisan@city.kamakura.kanagawa.jp


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