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第6回 「世界遺産登録後の鎌倉を見据えて
 − その趣 (おもむき) と理 (ことわり) −」(平成24年)
報告3頁

 
ワークショップ風景U

 鎌倉を訪れたことがほとんどなかった私が、ひょんなご縁でこのワークショップに参加させていただいてから、はや5年が過ぎました。それまで長野県の松本市に住んでいた私は、2000年代の中盤から、少子高齢化の進行や人口減少を前提とした地域づくりに興味を持つようになり、町並み保存や地域ブランド化を積極的に行なっている地方自治体への取材を続けてきました。

 その過程で、過疎と高齢化に苦しみながらも、自分が住む地域への誇り(アイデンティティともいえましょうか)を取り戻そうと奮闘している住民や行政パーソンの姿を見聞してきました。世界遺産登録ほど大げさなものでなくても、重要伝統建造物保存地区や歴史的まちづくりなど、わがまちやわがむらの地域資源を見いだし、交流人口を拡大することで、自分のむらやまちに息づく伝統や生活を持続可能なものにするというのが、多くの地域社会に共通の戦略であるように思います。

 鎌倉といえば、日本国民のみならず、世界中から憧れの目でみられる古都であり、人びとが訪れて、できれば住んでみたい都市としては、完全に「勝ち組」です。そんなまちに住む人にとって、世界遺産登録がどのような意味をもちうるのかというのが、私にとっても重要な興味関心でした。

 ワークショップにはこれまでも、鎌倉市の内外から、世代的にも職業的にもいろんなバックグランドをもつ人が集まり、本当に積極的な議論が行われてきました。その中でも興味深かったのは「今でも観光客が多すぎるくらいなのに、世界遺産に登録されてますます観光客が増えて、景観や生活が破壊されては困る」という意見をもつ人が、少なくとも鎌倉在住の方に限れば圧倒的に多数だということでした。

 「これ以上、観光客で混雑するようなら、世界遺産に登録されなくても構わない」という意見の方も少なくなかったように思います。

 今回のワークショップでもとりあげられたように、観光と住生活の両立は、町並み保存や景観保全で交流人口の拡大を目指す地域にとっては、どこでも大きな課題です。しかしその問題がここまで先鋭化しているのは、鎌倉ならではの特徴のようにも思います。

 しかし私にとって興味深かったのは、仮に世界遺産登録に心の底から賛成しているわけではない方々であっても、市民が語り合う場としてのワークショップには、継続的に参加しておられる姿でした。特に今年は、すでに登録作業は市民の手を離れ、少なくとも一般の市民の方々にとっては、あとは結果待ちの状態です。それでも多くの人が日曜日の午後をまるまる費やし、自分の意見を表明し、他人の意見に耳を傾け、最後には各テーブルのテーマに沿って意見を集約していく姿には、感慨深いものがありました。

 というのも、少なくとも私が見聞した限りでは、どんなまちづくりも地域づくりも、結局はそこに住む住民の方々の関与とバックアップがなければ、画餅に終わってしまうからです。箱物に頼るのでない、行政に任せきりにしない、市民参画の形を目の当たりにした気がしました。

 近年「地域力」や「市民力」という言葉が流行となり、社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)という概念が社会学や政治学の世界で注目されています。具体的には、お金ではない人間関係の資本が地域社会にもたらす影響です。具体的には、市民と市民が取り結ぶ社会活動などのネットワーク、人びとに対する信頼の気持ち、「お互いさま」という互酬性の感覚を持っている人が多い地域ほど、行政サービスの質が高く、治安がよく、経済も成長している。更に異質な他者を受け入れる寛容性も高まることが知られています。

 鎌倉が世界遺産に登録されるかどうかはさておくとしても、鎌倉の現状や未来を、住民と住民、住民と行政がともに、他者の意見に耳を傾けながら、ともに考える機会を持ち続けるということが、社会関係資本の形成を支えていると思うのです。

 また、こうした住民参画のあり方は、行政と住民の協働の「鎌倉モデル」とでもいうべき形をつくりだしていく可能性があります。

 過疎や人口減少に悩む地方自治体が、地域のブランド化によるまちづくりを進めようとするとき、 市長や担当課の行政パーソンの超人的な働きが起爆剤になっている事例をしばしば見聞してきました(代表的な事例として、長野県小布施町、石川県羽咋市などを挙げておきます)。

最終発表を聞いてコメントを述べる赤川先生
  最終発表を聞いてコメントを述べる赤川先生
 行政は決して住民と対立するわけではなく、住民をサポートし、ときには元気を与える存在でもあります。

 鎌倉市の場合、超人的な行政パーソンを必要としているというより、一家言ある、ある意味で口うるさい(失礼!)住民の声にねばり強く耳を傾け、そのような対話の場をバックアップすることに徹している感さえあります。それはそれで、なかなかできることではありません。

 むしろ行政パーソンが超人的なリーダーシップを発揮するよりも、はるかに難しい調整を自らに課しているとさえみえます。そのような協働に対する、鎌倉市政の粘り強い取り組みにも、改めて敬意を表したいと思います。
赤川先生を迎えて話し合うCテーブル
  赤川先生を迎えて話し合うCテーブル


 
アドヴァイザー木下直之

 いったいどんな方々が集まり、どんな議論になるのだろうと楽しみにしていましたが、ワークショップが始まったとたんに、鎌倉はかくあるべきという意見をもともとお持ちの方が集まってきたのだと知りました。もとより意見がひとつにまとまるはずはありませんが、市民が、というよりも鎌倉を愛する方々(参加者は鎌倉在住者に限りませんでした)が意見を交わすことに大いに意義があると思いました。ただ残念なのは、若い人の参加が少なかったことです。

 活発な議論をうかがいながら、私なりに考えたことを整理してみます。
 第1に、山に囲まれ海に面したこの町の器を絶対に守ることです。それは鎌倉の背景ではなく、鎌倉そのものなのです。景観保存というと、見た目の風景を、その美しさを守ることととらえがちですが、人間中心ではなく、動植物のよりよき状態にも配慮しつつ、緑の保全に尽くすべきでしょう。

コメントする木下先生
  コメントする木下先生
 第2に、それほど広くはないこの器の中で、時代とともにつぎつぎと人が入れ替わってきました。歴史を刻むということは、つねに新しいものが加わるということです。「武家の古都」というスローガンは世界遺産登録をめざす上では上出来かもしれませんが、鎌倉時代の鎌倉ばかりが回帰すべき鎌倉ではありません。近世の鎌倉にも、近代の鎌倉にも、そしていうまでもなく現代の鎌倉にも目を向け、文化資源を発見しようとする姿勢が必要です。明治維新のあと、廃仏毀釈を経て整備された鶴岡八幡宮境内に戦後は近代美術館が加わったことをどう評価するのか?と問いかけてみたいのです。
 「武家の古都」にとって、あのモダニズムの建物は排除すべき異物にすぎないのでしょうか。

 第3に、首尾よく世界遺産登録が実現した暁には、観光客が激増することは必至です。交通問題が最優先課題であることに同感です。ワークショップでは、一方通行の導入や江ノ電の延長など大胆な提案がなされましたが、英知を集めて、歩き回ってこそ楽し い町を実現させたいものです。段葛の海に向かっての延長もありうるのではないかと思います。

 第4に、鎌倉の文化には建物や史跡のように目に見えるものもあれば、習俗のように明確なかたちを 持たないものもあります。かつて、鎌倉武士は弓馬の道で知られました。鶴岡八幡宮で催される流鏑馬はそれを想起させる行事です。もうひとつ、これに在来馬の飼育を加えてみるのはどうでしょうか。
 鎌倉武士たちの愛馬はいずれも小さな馬でした。近年、木曽馬・野間馬・トカラ馬といった在来馬の飼育保存が注目されています。「武家の古都」を標榜するのであれば、市民有志による木曽馬の飼育を、たとえば御成小学校で実現させ、観光客にも開放してはどうかというのが私の希望です。もちろん、ホースセラピー、アニマルセラピーとしても有益です。

 第5に、未来の鎌倉市民は誰かと問うことが大切です。最近の鎌倉では、若い人が小さなカフェやブティックを開業することが目立ちます。行政が空家利用の仕組みをつくって、さらに若い人を引き入れることがあってもよいのではないかと思います。つぎの世代、さらにそのつぎの世代が鎌倉という器の住人になるのですから、若者を引っ張り込む仕掛けを考えるべきでしょう。

 
ワークショップU

■中間発表
ワークショップU ワークショップU
  山村さんと岩城さんによるA‐1テーブルの発表

  能登原さんによる   Cテーブルの発表

ワークショップU
  征矢さんと鎌田さんによるB‐1テーブルの発表

■最終発表
大江さんと落合さんによるB‐2テーブルの発表 金子さんによるA‐2テーブルの補足説明
  大江さんと落合さんによるB‐2テーブルの発表

  金子さんによる
  A‐2テーブルの補足説明


能登原さんと草場さんによるCテーブルの発表
  能登原さんと草場さんによるCテーブルの発表
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A‐1テーブルで説明する
比留間部長 内海広報部会長による 
閉会の辞
  A‐1テーブルで説明する比留間部長

  内海広報部会長による閉会の辞


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